佐々先生の 海外・帰国 あれこれコーナー
第21回 「帰国生 プラス 国内生」
◆得意を生かすチームワーク
先日、高校生の「ビジネス・アイデア・コンテスト」という催しが行われました。課題となるテーマを受け、ビジネスのアイデアを英語でプレセンテーションするというものです。いろいろな情報を集め、独創的な計画を立てて、具体的な資料を示しながら、実現の可能性があることを立証しなければなりません。二人一組のチームで参加します。
このコンテストで、啓明学園高校2年生の男子生徒二人の組が最優秀の成績を収め、国際大会に進むことになりました。私たちを特に喜ばせたのは、この二人が、日本国内で育った生徒と、海外のインターナショナルスクールから帰国した生徒の組み合わせだったことです。違う環境で育った子どもたちが、それぞれの強みを発揮することで、組み合わせがなければ期待できない大きな力が生まれることを目に見える形で示してくれたからです。
国内で育ったA君と帰国生のB君は、プロジェクトの最初から、ユニークな発想でたくさんのアイデアを考え出しました。調査の段階では、日本語と英語の資料を幅広く集め、短期間で読みこなしました。電話でも日本語と英語でたくさんの人に質問して情報を集めました。
プレゼンテーションの時も、二人で上手に分担しました。データの説明などは主にAくんが、始めと終わりなど、聴衆に語りかけるようなところは主にBくんが担当しました。質問を受けるときは、A君が資料を準備し、B君がそれを見て答えるなど、非常によいチームワークでした。
このことはまた、資料や事実にもとづいてしっかり考える力をつけていれば、何語で勉強した子でも、同じテーマのもとに協力し合えることを示しています。
具体的に学習してきた内容が同じでなくても、共通のものを積み上げていくことができるということです。むしろ、ちがうことを知っている人の組み合わせの方が、おもしろいものを生む可能性が高いと言うこともできます。
別の見方をすれば、どの国の学校でも、ほかの言語で学習することになっても通用するような考え方や、情報処理の技術、コミュニケーションのスキルなどを身につけさせるような指導をしていくことが期待されるということになるでしょう。
◆助け合って力を伸ばす
啓明学園では、中学・高校の英語は生徒の学習の状況に応じてクラス分けをするシステムです。帰国生が多数を占めるクラス、国内生がほとんどというクラスもありますが、帰国生と国内生が混じっているクラスでは、両方の生徒が力を出し合う場面が見られます。例えば、国内生には、英語の指示が聞き取りにくい場合がありますが、そんなときは帰国生が耳打ちをして助けてくれるので、先生は遠慮なく英語で話すことができます。帰国生の中には、話すのは得意でも、正確な文章を書くのに苦労する子がいますが、日本語の説明を理解してしっかり文法を身につけた国内生なら、帰国生を助けてあげることもできるのです。
小学校では、イギリス人の先生が、英語で算数の授業をすることがあります。ある日の4年生のクラスでは、グループ活動のそれぞれのグループに帰国生が必ず入るようにしました。数字やグラフを見ながらの説明は、言葉だけのばあいよりも分かりやすいし、英語の時間には、いつも英語で指示を聞いているので、子どもたちはそれほど困った様子ではありませんでした。それでも、新しいことを説明されたり、少し複雑な指示をされたりすると完全に理解できないことがあります。各グループにいる帰国生は、ときどき先生の助手のような役割もはたしていました。帰国後日が浅く、普段の日本語の授業では友達に助けてもらうことの多い子も、今日は自信をもって友達の世話をすることができて、満足そうな表情でした。
日本語が第一言語である生徒たちが英語で授業を受けるときは、日本語の授業にはない難しさを克服しなければなりません。それは、帰国生が海外の学校に移ったとき、あるいは帰国して日本語で学習することになったときの体験に通じるものがあります。海外体験のない生徒たちにとっては、短い時間ではあってもよい経験になるにちがいありません。また、中には、日本語でない言葉を使って勉強することに新鮮な楽しさを見いだす子どもたちもいます。
この時間は、日本語を使うことを禁止してはいませんが、多くの子どもたちは自然に英語で先生の質問に答えます。日本語では表現しにくいことが英語ならもっと簡単に表現できる場合があることにも気づきます。
◆力を発揮できるように
ただし、帰国生と国内生が一緒になれば、いつでも新しい力が発揮できるというわけにもいきません。帰国生が非常に少ない環境では、どうしても多数に合わせなければならない状況になってしまって、難しい場合もあります。先日国内の学校から啓明に転入して来た中学生は、生まれてからの人生のほとんどをイギリスで過ごした生徒ですが、日本に来てすぐに入った学校ではなかなかうまく行かず、特に英語の時間に苦労したと話していました。彼が普通に英語の文章を読むと、その音に慣れていない同級生たちがびっくりして、一緒に勉強しづらい雰囲気になってしまったのだそうです。耳慣れない発音をする人、髪の毛や皮膚の色など見慣れない外見の人などに接すると、自然に振る舞えなくなってしまうのはだれにでもあることでしょう。同級生たちにしても、外国から来た新しい友達をあたたかく受け入れようとする気持ちは持っていたのだと思いますが、慣れないことに直面し、どうしたらよいか分からなくなってしまったのではないでしょうか。
帰国生の多い学校の生徒たちは、日本語が多少外国語訛りだったり、話のやりとりがいくらかとんちんかんだったりしてもびっくりしません。今までにたくさん経験をしているので、そんなものだと思っているからです。英語の発音がイギリス人ふうであっても、初めて聞く音ではありませんから、違和感はありません。
いわゆる異文化体験の豊富さが、余裕を呼ぶということでしょうか。
外国の物が身近にあふれ、町で外国人の姿を見ることがめずらしくない時代になりましたが、まだまだ日本の子どもたちの異文化体験は少ないと言わなければならないようです。世界的に見れば、ちがう言語を話す人たち、いろいろな生活習慣を持つ人たちが一緒に生活するのはむしろ普通のことでしょう。そのような環境にとまどうことのないような力と感覚を育てていきたいものです。
「INFOE」 2008年7・8月号(第21号)掲載